哲学/倫理学セミナー
















第一一〇回
【第一部】 構想発表
 佐々木 雄大
 「モラル・エコノミーとは何か」


 「モラル・エコノミー」は一般的に、歴史家・新左翼活動家であるE. P. トムスンが「18世紀イングランド群衆のモラル・エコノミー」において提唱した概念として知られている。トムスンによれば、18世紀イギリスで起こった民衆行動である食糧暴動は、公共の福祉を優先するための正当で道徳的な行為であり、そうした伝統主義的な経済観念に根差した「モラル・エコノミー」は、近代的な自由主義経済を推進する「ポリティカル・エコノミー」の言説と衝突するものであった。この概念はやがて、ジェームズ・スコットらによって、市場経済に対する伝統的な「農村経済」を意味する概念として使用され、現在でも広く用いられている。
 他方で、この概念の起源は定かではない。当のトムスンも「18世紀後半に由来すると思うが、参考文献を見つけることができない」として、1837年のただ一例(チャーティストのオブライエン)を引いているのみである。では、この「モラル・エコノミー」という概念の起源はどこにあるのだろうか。また、その本来の意味とは一体何だったのか。本発表では、この概念の意味と歴史について整理してみたい。


【参考文献】

  • E. P. Thompson, Customs in Common, The New Press, 1993.
【第二部】 発表
 横地 徳広
 「アレントの政治原論――ハイデガー『プラトン:ソピステス』講義との批判的対話?」
                          


   アレントは、未刊におわる『政治学入門』で「政治の意味への問い」を掲げていた。これを見ると、やはり、ハイデガーの「存在の意味への問い」との関わりが気になる。
 「存在は多様に語られる」(アリストテレス)さい、多様な存在概念をつらぬく一性が「時間」であることを表現してハイデガーは、「存在は時間から了解される」と述べていた。「一と多」にまつわる、この洞察の正しさを「存在史」の諸事象に確かめるため、彼は「存在の意味への問い」を提示し、それは、「存在と時間」の「と」を問うことであった。
 とすると、アレントの場合、「政治の意味への問い」にあって「一と多」は何を指していたのか。つまり、政治のいかなる歴史のなかで「政治と何」の「と」を問おうとしていたのか。あるいは、アレントの意図をこうして探るアプローチは正しいのだろうか。
 手がかりは、若きアレントが参加したハイデガーの講義『プラトン:ソピステス』にある。のちに彼女が「哲人王」思想を徹底的に批判するプラトンの対話篇にあって『テアイテトス』、『ソピステス』、『ポリティコス』は連続して行なわれ、このなかで、「哲学者、ソフィスト、政治家とは何か」が問われていた。これは同時に、「存在と現象」にまつわる「一と多」を問うことでもあった。ハイデガーによる『ソピステス』篇の解釈と、アレントのその批判的検討を確かめながら、『政治学入門』のうちに彼女の政治原論を見出したい。


【参考文献】

  • ハンナ・アーレント『活動的生』、森一郎訳、みすず書房、2015年.
  • ハンナ・アーレント『政治の約束』、ジェローム・コーン編、高橋勇夫訳、筑摩書房、2008年.
  • Martin Heidegger, Platon: Sophistes, Marburger Vorlesung Wintersemester 1924/25, Gesamtausgabe, Bd. 19, Vittorio Klostermann, 1992.
【お問い合わせ】 peseminar@excite.co.jp
[第109回] [第110回] [第111回]
[過去の例会1] [過去の例会2] [過去の例会3] [過去の例会4] [index]

【日時】
2016.2.20(土)
14:00~18:00
【場所】
東京大学 本郷キャンパス
法文一号館 216教室

【来場の手引き】
・東京メトロ本郷三丁目駅、東大前駅からともに、会場までは徒歩15分程度。正門(緑門)の利用が便利です。

・事前連絡は不要です。みなさまご自由にご参加ください。
【関連リンク】

 ■第89回
 ■第85回
 ■第36回
 ■第13回


inserted by FC2 system